AWS AND SKYARCH
渥美俊英さんインタビュー
~AWSとスカイアーチ~
顧問 渥美 俊英
常務執行役員 高橋 玄太
第2章
『クラウドと仮想化は似て非なるもの?』
高橋
渥美さんの経歴のお話をお聞きして、AWSと出会って、この6年くらい注力されているという話ですけど、渥美さんからご覧になられて、クラウドというのは今までのエンタープライズの市場やインフラ回りのビジネスにおいて、何がすごいのか、どう凄いのかというところをお聞かせいただけませんでしょうか?
というのも「仮想化(注.1)=クラウド」って、捉えていらっしゃる方もまだまだいるみたいなんです。クラウドと仮想化は似て非なるもの…構成要素の一部ではあるかもしれないけど、そもそもコンセプトが違うという点についてお話いただけるでしょうか?
渥美
クラウドの革新性って、仮想化の話もありますけど…
これまでのインフラエンジニアの方々の考え方は、機械(マシン)があって人間が付いてきているというのが大きな流れだったのではないでしょうか?マシンに合わせて人間がサポートしていくというものだったと思われるのです。
しかし、マシンは5年で壊れることもあるし、また、5年経てば償却を経て全面的にシステム更改されることになります。このように日本ではハードウェアがあって、そのハードウェアのお守りをするということにエンジニアの大規模な工数を割いてきたと言えます。
しかし、クラウドというのはこれを大きく大転換することが出来て、壊れたらその場で膨大な仮想サーバのリソースがあるのでそれで替えれば良い、5年に一度システムの更改というのも今までのような作業は不要で新しいインスタンスに差し替えれば良い。その分工数が大きく自由になるので、逆にビジネスに直接貢献できる。
そういったエンジニアリングが勘所になってきているっていうのが、これまでと大きく変わるものになります。ソフトウェアで全てのことがコントロールできることが今までとの大きな違いですね。
「クラウド」というと「仮想化してますよ」ということと同じことのように考えている人がすごく多いけど、「仮想化すること」と「クラウドを使いこなす」ということは大きく違うんですね。
クラウドというのはソフトウェアでアプローチすることで、仮想サーバをそのままソフトウェアでコマンドや到達するということだけではなくて、DBとか様々な監視とか運用に関わるものを、マネージドサービスで使っていくというのが今までとの大きな違いです。インフラを仮想化するというだけだとその一部にしか過ぎない。
ユーザーは何をしたいのかというとビジネスをやりたい。そのためにはアプリケーションを動かしたい、そのためにいろんなミドルウェアのソフトウェアを入れる、そうするとその管理が必要になる。そして管理がものすごく多くなり、大変になってくると、ユーザーは管理に工数を奪われ、やりたいことは出来なくなる…そうではなくて、やりたいビジネスに直結するエンジニアリングに集中出来る、ということがクラウドにしかできないことなのです。
高橋
もともとこの流れ、仮想化自体の技術的な動向っていうのは随分前からあったと思いますが、なぜこのパブリッククラウド(注.2)というものがそもそもメインストリームに来たのかっていう点においては、渥美さんはいかがお考えですか?
渥美
全体のコンピュータの流れで言えば、もともと汎用機があって、ミニコンピュータ(注.3)でも同じパフォーマンスが出来るようになって、パソコンをサーバにして…という流れになると思います。
いずれにしてもそれまでの革新と呼ばれたITの歴史というのは、ハードウェアがあってそれをどう新しい技術で仮想化するか?というものでした。仮想化っていうのはハードウェアとOSミドルウェア、OSよりも上を分離したっていうのが大きな進歩で、これによって特にインフラエンジニアの工数削減、柔軟さが実現されました。
しかし、クラウドっていうのはその先をいっていて、情報システムに必要なOSの上のDBや管理アプリといったシステムをソフトウェアで最大限実現する、人間でしかできないことに集中することを実現しています。
クラウドは…特にAmazonをはじめとして、今までIaaS(注.4)、PaaS(注.5)、SaaS(注.6)という言い方をされていますけど、PaaSというのはDBとかシステムを作りやすくするサービスで、SaaSはアプリケーションそのもの、今AmazonではIaaSのサービスは革新を続けているけど全体では1/4くらい、残りの多くはPaaSであり、SaaSの新しいサービスなんです。これらを組み合わせてビジネスに集中するというのが現実的な解になってきている。ここが単なるIaaSを仮想化するだけではない、という大きな違いです。
高橋
機能面からのIaaS、PaaS、SaaSの違いについてコメントをいただきましたが、歴史的にみるとAWSが北米で始めた時期(11年前)の時点でこういうものになると考えられてはいなかったのでしょうか?
渥美
そこまでは誰も考えていなかったと思います。ただ11年前の黎明期に私が素晴らしいと思ったのは、ハードウェアに人間が従属するものってことから、ボタンをクリックすることで世界中のどこにいても数分でインフラが立ち上がると。これによって今までの自分たちの仕事が大きく変わってきているということに凄い衝撃を受けたんです。
実はAWSのRe:inventという大きなイベントの第1回目が2012年にあったんですが、この最初の基調講演に私は凄い感銘を受けました。
どんな講演だったかというと、一つには数年後にはエンタープライズのシステムはクラウドで実現できるということと、もう一つはマネージドサービスを使いましょう、という講演でした。
何故、マネージドサービスかと言うと、ソフトウェアで出来ることを人間がやるのは効率が良くない、ソフトウェアでインフラとその上の実現できるということを半分予言していた訳です。ですが、それもまだ先の未来の話だろうという講演でした。
そのわずか1~2年後にRedShift(注.7)などが出てきて、データベースのサービスもバックアップもサイジングも最新のでやってみればパフォーマンスもあがるし、パフォーマンスもコントロール出来るというよな魔法のようなサービスがその後続々と出てきた。これがこの2,3年くらい。
その中でマネージドサービスでエンタープライズのシステムを実現していくというのが、半年とか1年単位で現実的なものになってきたというのがその2、3年くらい。
これにエンドユーザーが実際の事例を元に現実の解として実現できるようになったというのがこの特に2,3年かな。
なので今急激にエンタープライズの利用が増えてきているのはその積み重ねがあるのかなと思いますね。
注.2:一般のユーザー、企業に向けてインフラ事業者がインターネット経由でクラウド環境を提供するサービス。
注.3:技術計算・プロセス制御など専用に使用される高性能な小型コンピュータ。
注.4:仮想サーバやHD(ハードディスク)ネットワークなどのインフラをネット上のサービスとする形態。
注.5:アプリケーションソフトが稼動するためのハードウェアやOSなどのプラットフォームをネット上のサービスとする形態。
注.6:ソフトウェアをネット経由でサービスとして提供・利用する形態。
注.7:Amazon Redshift。データウェアハウス=データの収集倉庫。当時の従来品より各段に安く、クラウドで使えて安全であると高く評価された。